店販コラム「美容室 店販の参考書」

お客様自身の自覚症状の有無によって立場を使い分ける

26 ページ「 「困っているお客様」を探しちゃダメ! 」より

一般的にお客様は自分の毛髪が健康な状態(ベスト)と比較してどの程度損傷しているか肌感覚で分かっていない事をまずは理解しなくてはいけません。
美容師さんは、不特定多数のデザインを担当する関係から数多くの症例を知っています。また、必要な薬剤や処方、施術を施すと、髪の毛は見違えるように質感が戻る(あがる)ことも、経験則から分かっています。

しかし、お客様は自分の髪質以外の感触を知る機会は少なく、また、どのようなケアを施せばどのように髪質が良くなるかを勉強する機会も存在しません。

したがって、お客様自身が現時点の髪質を判断する材料は、「以前と比較して」が、前提となります。すると、市販のシャンプーを10年来使い続けてきたお客様は10年前もこの髪質、10年たった今もこの髪質ということになる確立は高いと考えられます。つまり、前からこんな感触だったので私の髪質はこんなものなのだろうという感覚です。

プロから見れば、「もっともっと美しい髪質になれますよ!」と言いたいところなのですが、お客様自身は「前からこんな感触だった」という現状認識なので、「傷んでいる」という自覚症状が全く無い可能性があります。

美容師さんが、「髪質でお困り(お悩み)の事がありますか?」と、お客様自身に「言いやすい環境を作って差し上げる的」なシーンをよく見かけますが、「別にありません」という回答がもっとも多いという悲劇を生むのはこうした理由もあるだろうと私は見ています。

「髪質の悩みはありません」ときっぱり言われたたその後、「髪質改善」の仕事が一気にやりにくくなることは言うまでもありません。皆さんもこのような経験が何度もあると思います。

したがって、
「ヘアドクター」という立場オンリーでお客様に対峙するのは難しい事が分かります。「ドクター」とは、「自覚症状」があり、「改善を望む」方にのみ機能する立場です。「自覚症状」もなく、「改善を望まない」方にとってみればその地位は大きな存在ではありません。

「健康だと思っている人」をつかまえて、「健康にしてあげよう」と声をかけても、その心意気や正当性を理解してくれる人は皆無でしょう。
このような事から、美容師さんはお客様の自覚症状の「有る」、「無し」によって二つのポジションを変則的に使い分ける必要があると私は思います。
私が推奨する二つのポジションとは次の様なイメージです。

①「自覚症状の有るお客様」は「困っているお客様」ですから、「何としても悩みを解消してあげるヘアドクター」として振舞う

②「自覚症状の無いお客様」は「困っていないお客様」ですから、「今よりも、もっと質感を良くする方法を教えてあげるヘアアドバイザー」として振舞う

このようなポジショニングの準備をしておくと、お客様自身が自分の髪の毛の状態をどのように捉えているかによって提案や情報の伝え方を自在にコントロールできるようになります。

こうしたスタイルでお役立ちする職業を称して「コンサルタント」と呼びます。従いまして美容師さんは髪質改善の「コンサルタント」のようなイメージを持って、多くのお客様の「現時点の髪質」を、より美しくしていっていただきたいと思います。